2008年3月30日日曜日

家法にすべしは『こんとろおらあ』

ちょっとそこのあんた!
そうだよ、そう。
お前さんだよちょっとこちらに来なさんな。
いいからいいから、
茶くらいご馳走してやるからよ。
まぁまぁ遠慮するこったぁないんだよ、
わかんない人だなぁ、
いいから来いってんだよ。
ホラ、座布団やるからそこに座りな。
なに? 座布団敷く場所なんかないじゃないかって?
そんなのこうやって適当にものをどかしてやりゃあいいんだよ。
そうすりゃあそれくらいの場所くらい取れるだろ。
そら、ほら、どら、な? ちゃんと座れただろ? 言わんこっちゃない。
何だって? お茶はまだかって?
せっかちな人だねぇ、ちょっと待ってなって。
お~い、茶だ、茶を持って来い。
それから茶箪笥に最中があっただろ、
それを二つだよ。
え? 二つも茶菓子が食えるのか?
馬鹿だねぇ、一つはあたしのものに決まってるでしょ。
二つ食えねぇんなら帰る?
嫌だね、この業突く張りは。
あぁ、いいさ、別に行っちまいな!
あんたに食わせる菓子なんかないさ。
とっとと行けってんだよ、ホラ、ソラ、おらっとととと、、
本当に行くんじゃないよ、大人しくそこに座ってなってもう。
ねぇ? まぁまぁまぁ。
あー吃驚した。
おい、最中もう一つ追加だ。
ホラ、これでいいんだろ?
あんたが二つであたしが一つだ。
え? なに? 
三つあるんなら三つ食わせろ?
驚いたねこの人は。
この最中はね、ただの最中に見えるけど実は餡は近江の小豆を半年かけて煮込んだ極上の餡で、
生地は京の熟練の職人が丹精を込めて一つ一つ作り込んだ……
ほら、この花びらの作り一つとってしても見事だろ?
お前さん、こんなのいっぺんに三つも食っちまおうなんて罰が当たるってもんだよ。
地獄に落ちるよ。
そうなったらお釈迦さまだって助けてくんないんだから。
だからあんたは地獄の名所巡りでまずは血の池地獄らから……
ん? わかったって?
あぁ、そうかいそうかい。
いいねぇ。好きだよ、ものわかりのいいヤツは。
さ、納得したら丁重に食べっちゃってくださいよ。
どうだい? 美味いだろう。
なんてったって……
は? 茶菓子の自慢はいいからさっさと本題に入れ?
ええっと……何も気づかないわけ?
何がってまた、惚けちゃってぇもう。
で、何も気づかないわけ?
わかるでしょお。ほら、ほら。
まだわからない?
んもぉ、そんなんだからお前さんは昔から愚図だ愚図だって言われるんだよ。
え? さっき会ったばっかだって?
そんなこったぁどうでもいいんだよ。
それよりもさ、ホラ、
部屋をよおく見回してみて、棚の中なんかも見てみて、あたしの手もとに……
てへ。気づいちゃった?
気づいちゃったの? まったく、目ざといねぇ。
油断も隙もあったもんじゃない。
気になる? 気になるの?
別にいい?
そんなこと言うんじゃないよ。見せてやるから機嫌直しなよ。




どうだい、この金属的な外見。
形なんてこう真直ぐにピーとなってパーとなってポーってな感じでね、
なんていうか機能美だというか洗練されたっていうか眩いばかりっていうか簡素というか『ほおむめえど』というかイカス!というかナイス!というか……
いいからとにかく褒めりゃあいいんだよ。
ん? 格好いい?
いいねぇ、あんたもわかってんじゃないよ。
どうだい、凄いだろ?
こいつぁ『こんとろおらあ』っていってね、
こうこう、手もとでこうやって持ってね、この四つついてる『ればあ』をこうぐりぐり動かすわけだよ。
ほら、あんたもやってみるかい?
ダメだよダメ。
あたしの大事な代物なんだから、手垢でもついてこの光沢がくすみでもしたら大変じゃないですかって。
あ、まぁまぁまぁまぁ、立たなくったっていいじゃないのよ。
ちょっとだけ触らしてやっからよぉ。
さ、座んなよ。最中だってまだ一個残ってるんだしさ。
勿体ないよぉ、こいつぁいい最中なんだからさ。こんないい最中、これを逃したらあんた、一生お目にかかれないね。
なんてったって餡は近江の小豆を……
何? そんなのいいから早くそれを寄越せ?
仕方ないねぇ、ちょっとだけだよ。
本当にちょっとだけだよ。
パッと触ったらパッと返してくれよ。
あ、あぁぁぁ、もう、いちいち席を立ちなさんなって。
もういいから。好きに触っていいから。
ほらちゃんと持った?
それならこの『ればあ』をこうぐりぐりっとね。
どうだい、この動かした時のかちゃかちゃって音がたまんないだろ?
おおっと、馬鹿。下から覗き込むんじゃないよ。
これはこうやって真正面から愛でるのがいいんじゃねぇか。
綺麗だねぇ、美しいねぇ、洒落てるねぇ。
まったく裏を覗こうなんてどこの外道だよ。
粋ってもんをわかってないね。
わかる? 粋だよ、粋。
裏なんて別にどうなってたって構わないんだよ。
な? そうだろ?
だろ? ってだから裏を覗くなってこの馬鹿。
え? 何だって? ただカチカチやってるだけじゃつまらないからもういい?
何言ってんだい。こいつが凄いのはこれからこれからなんだから舐めてもらっちゃぁ困りますよって。
この『こんとろおらあ』ってヤツはね、『ろぼっと』っていう機械人形を動かすためのもんなのよ。
例えばな、この『もおたあ』ってヤツをこう繋いでやってな、この軸にちょっと注目しときなさいよ。
いいかい? 行くよぉ?
この『ればあ』を上に倒せば軸は左に回り、下に倒せば右に回り。
どうだい、凄いだろ?
何がってそりゃあ、あんた。
もう一度やるからよく見とくんだよ。
いいかい? いくよ?
この『ればあ』をね、上に倒せば左に回る、下に倒せば右に回る。
さぁ、どうだい。
吃驚して腰を抜かしちまったかい?
へへへ、凄いだろう。
『ればあ』をね、上に倒せば……
ん? もういいって。
まぁ、そうね。ここまでやればわからずやのお前さんにだって流石にわかるってもんだ。
これはこうしてね、これからは神棚にでも奉ってこうして拝んでやるわけだ。
すると朝になればお天道様の光でバァーっと輝いて後光が差すんだよ。
いいだろ? な、いいだろう。
あんたもようやくわかるようになってきたねぇ。
なんだって? この素晴らしい『こんとろおらあ』をもう一度手に取って拝みたい?
そうだよなぁ。こんな逸品、お前さんなんかじゃそうそう手に入れるなんてことできないだろうからね。
ほら、いいよいいよ。
あたしもね、わかってもらえて嬉しいわけよ。
ちゃんと隅々まで目に焼き付けておきなさいな。
そうそう、そうやってね、
って馬鹿! 裏は覗かなくていいから!
やめろって、コラ!
やめ、ヤメ!
あ、あぁ、あぁぁぁぁぁ~!

裏方は今も、悪戦苦闘中にございます。



本日のボーナスショット

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